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0からめぐる、ホテルのたのしみ
08 | ホテルを企画する人たちが語ること。

2024.06.10

  • 特集
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2024年5月で開業1周年を迎えるITOMACHI HOTEL 0。日本初のゼロエネルギーホテルとして、地域のいいものに新しい角度から光をあてた空間や料理、演出で話題を集めてきました。今回は、地域から愛されるホテルを目指し、企画・運営に奔走してきた株式会社GOODTIMEの皆さんに話を訊きました。

難しいマーケットと見込みながら、挑戦する。


全国的に住みやすいまちとして高く評価される愛媛県西条市。建築家 隈研吾氏による建物や日本初のゼロエネルギーホテルという“個性”をどう活かすか。そこで白羽の矢が立ったのが、全国各地でホテルやオフィスなどを通してまちづくりを起点とした場づくりに取り組んできた「GOODTIME」でした。代表の明山さんはこう言います。

明山「施主であるアドバンテックさんの、地元を元気にしたいという熱い思いとゼロエネルギーの取り組みに深く共感し、企画・運営でサポートさせていただくことになりました。実は建物用途別のエネルギー消費量において、ホテルは飲食店に次いで床面積あたりの電力使用量が多くなっています。観光立国化を目指している日本だからこそ、これから計画されるホテルを考える上では避けられない課題だと取り組む意義を感じていました。しかし、ゼロエネルギーであることを全面に押し出した企画だけでは、純粋に宿泊や旅を楽しみたいニーズと直接的には紐づき難いという課題を同時に感じていました。そこで、ゼロエネルギーの価値を踏まえつつ、地域に目を向けることから、企画を始めていきました」


▲ゼロエネルギーを算出して、わかりやすく“見える化”

ホテルを囲む一帯は、ビジネスホテルの需要がベースになっているマーケット環境。GOODTIMEが関わり出したタイミングでは、ワークショップを通し地域の声を大切にした観光需要向けの大きめの客室構成が軸となり計画が進行していました。通常のマーケット論理にとらわれず、進行している計画を活かして、どうやって新たな需要を生み出すのか。コロナ禍でインバウンドも期待できず、先を見通しにくい中、知恵を絞っていきました。

明山「私たちが初期から課題と感じていたのが、観光向けの宿泊需要は基本的に週末なので、平日をどう埋めるかということでした。そこで考えたのが、次のような滞在プランです。例えば企業研修で連泊して、午前中は広場でヨガをした後、スタジオで打ち合わせをする。お昼はいとまちのマルシェでランチボックスを買ってピクニック気分を味わう。午後はホテルを見学し、Z E Bを学ぶ。夜はいとまち内の屋外エリアでバーベキューをするという過ごし方です。実際に私たちも、この街を訪れそれに近い体験したらものすごく気持ちよくて、ぜひ多くの方に体感してもらいたいなと思いました。ゼロエネルギーや、いとまち全体で取り組んでいるマイクログリッド(小規模電力網)など、企業や行政の視察ニーズがあることも聞いていたので、これを活かして、更に研修なども絡めて、いとまちでの滞在の価値を伸ばしていこうと考えました。それに加えて、観光向けの宿泊需要であるファミリーが来ても楽しめるコンテンツを意識して、大きい客室はスリーベッドのファミリールームにするなど、進行していた計画のベースを活かしながら、新しい価値を生み出すことを心掛け、企画を進めました」

一方、西条市は、世界的にも人気の観光地である瀬戸内エリアに位置します。空間ブランディングを担当した菓子麻奈美さんは、マクロで捉えたホテルの立地に可能性を感じていたそうです。

菓子「気候、瀬戸内海、食べ物と、瀬戸内エリアは本当に豊かで私も大好きです。ITOMACHI HOTEL 0は今後、瀬戸内をめぐるポイントになるという予感がありました。いいホテルがあれば、国内だけではなく世界から人が足を運んでくれます。地元の人たちとゲストが交わって、それを繰り返すことで場が醸成していく。そんな未来図を思い描きながら、現場に通いました」


▲ホテルの企画に携わったGOODTIMEメンバー。左から代表・明山淳也さん、菓子麻奈美さん、入部圭介さん、山口未来彦さん、森美景さん

“よそもの”だから見えてくる地域のよさを取り入れる。


地域の良さを取り入れること、人が集まる場をつくること。このふたつは、場づくりをする上でGOODTIMEが特にこだわっているポイントです。ITOMACHI HOTEL 0の空間の要となる中庭に、当初は予定になかった「うちぬき」をつくるよう提案します。

明山「街中を散策したとき、あちこちでうちぬきが湧き出ている感じがとても素敵で。うちぬきは市民にとって生活に根ざす特別なものだし、他の地域にはないものです。このホテルを構成する上でうちぬきは外せませんでした。モニュメント的にただ眺めるようなうちぬきとは違う、自然と人々が集まり過ごせるようなうちぬきをつくってほしいとDugoutの渡瀬さんたちにリクエストしました。私たちはいろんな地域の仕事に関わっていますが、そのまちにしかないものをリサーチし、感性も研ぎ澄ませて探します。“よそもの”であることを活かし、外から見た地域の良さに光を当て直すことで地域の魅力をさらに引き出し、発信したいと考えています」


▲中庭の水場。周りで本を読んだりお酒を飲んだりくつろぐことができる。「うちぬき」をはじめとするインテリア・ランドスケープについての記事はこちら。「インテリア・ランドスケープデザイナーが語ること。」

ITOMACHI HOTEL 0で提供する料理にも、食材・調理法など地域の良さを存分に取り入れています。食関連を担ったのが入部圭介さんです。

入部「カロリーを抑えながらも抗酸化作用に富んだ栄養価と美味しさを担保すること。このミッションはとても大変でした。『美味しい』という感想をいただくと本当にうれしい。食材をはじめ、お茶、コーヒー、ビール、一つとってもつくり手の元に足を運び、理由を持って選んだので一つひとつにとても思い入れがあります」


▲地元の食材を厳選したランチも人気。料理の開発秘話についてはこちらの記事も合わせてお読みください。「料理について3人のプロが、語ること。」

知的好奇心をくすぐることが、ホテル滞在を豊かにする。


ホテル内には、和紙を使った繊細なアートや、西条のうちぬきの音から音楽を構築する仕組みの起用など、知的好奇心をくすぐる仕掛けが施されています。それらは、ホテルのコンセプトに据えた「0からめぐる 愛媛のたのしみ。」を具現化したもの。

明山「どんなプロジェクトでもコンセプトをしっかり考え、そのコンセプトに基づいて進めるのがとても大事だと思っています。『0からめぐる 愛媛のたのしみ。』という言葉は私たちの行動規範にもなっています。先入観を持たず、“ゼロ地点”に立ってたのしいと思うこと、素敵だと思うことを大切にして、住・食を含め愛媛にまつわる多様なモノ・コトを取り入れています。アート作品に『りくう』さんを選んだのも、伝統工芸にテクノロジーを掛け合わせる現代の知恵に惹かれたから。できあがったものを見てお客さんは『これが和紙で作られているの?』とか『どうやって作ったの?』とか、知的好奇心をくすぐられます。これもホテルで採用するモノ・コトのポイントです」

サウンドデザイナーとうちぬきを軸にした音づくりをはじめ、松山の書店「本の轍」との選書やゼロエネルギーのビジュアル制作など、館内演出のディレクションを主に担当したのがGOODTIMEの山口未来彦さん。知的好奇心を膨らませるモノ・コトが地域に与えるインパクトも見据えています。

山口「人を受け入れてくれる土壌があり、移住者も多い西条市は、外からの風通しも良いので化学反応が起きやすいまちだ実感しています。僕らがアーティストやデザイナーさんをはじめ、いろんな方を連れてきて新しい化学反応を起こして、西条というまちの可能性を広げていくことができたら、という思いで動いています」


▲ホテル内にある「りくう」のアート作品。アート制作に込められた思いはこちらの記事もお読みください。「和紙デザイナーが語ること。」


▲カフェで流れるのは、西条で集めた音源とテクノロジーを掛け合わせた自動音楽構築システム「AISO」。音に込められた思いはこちらの記事。「音のかけらをデザインする人が語ること。」

ホテルを通してまち全体が元気になること。それが目的。


これまで、ホテル・オフィス・商業施設・住宅などのプロデュースやディレクションに携わってきたGOODTIME。どんな場もその地点だけで捉えず、どういうところから人が集い、そして、その場から何が生まれると、まちはどう変化していくのか。そんなまちにつながる観点を持ち、新しい場づくりにこだわってきました。

明山「私たちは、ホテルでもオフィスでも、それだけの用途の場をつくっている感覚はありません。最終的にまちを元気にすることが目的なので、手段として場があり、どうまちとつながるかを考えています。海外だと、地元の方が待ち合わせ場所にホテルを利用するなど地域に開かれているホテルが多い印象です。日本でも、そういったホテルは増えてはいますが、多くの方にとってホテルは宿泊客だけの場所という意識はまだまだ強い。ホテルを日常的に使えるようにし、その意識を変えたいというのはホテルを手がける時、いつも意識していることです」

“日常使い”をめざすからこそ、ITOMACHI HOTEL 0は洗練された空間の中に親しみやすさ、過ごしやすさを抱き、利用者側に遊びや工夫の“余白”があります。その余白を象徴するのが中庭の水場であり、HOTEL棟にあるCOWORKING & KITCHENであるのです。

明山「COWORKING & KITCHENの場所は当初、別の機能が見込まれていました。マルシェや広場といった『いとまち』全体も川も見える一番いい空間だったので、設計を変更してもらいました。マルシェで買いものをしてここで調理したり、みんなでご飯を食べたり仕事をしたりと、かなり活用してもらっています。私自身感じた西条の良さのひとつは、例えば、マルシェで地元食材を買って食べもらうことで体感いただけます。このホテルならではのたのしみ方を体験してほしくてエコバックを客室に常備し、買い物などに活用くださいとメッセージも入れています。ホテルに滞在しながら、地域の日常のよさを知ってもらうこと。それが、私たちが西条で提案する旅のひとつの形です」


▲HOTEL棟にあるCOWORKING & KITCHEN。子連れファミリーも気軽に利用できる


▲ITOMACHI HOTEL 0のオリジナルエコバックとタンブラー

今後、地域の人たちにもっと利用してもらうようなプログラムやプランを仕掛けていきたいと語るGOODTIME。その根底には、「地域で愛されるホテルを目指したい」という思いがあります。

明山「この間、うれしい話を聞きました。外国から来られたお遍路旅をする方が、地元の方から『あのホテルがいいよ』と勧められて泊まってくれたのです。私は、地域で認知され支持されることが何より大事だと思っています。自分のまちで好きなホテルはここだと思ってもらえるととてもうれしい。これからも地域の良さを取り入れていったり、新しい宿泊プログラムをつくったりしながら、地域との関係性をしっかり育み、発展させて5年、10年、しっかり西条を盛り上げていけるようにやっていきたいですね」

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ハタノエリ

1978年宮崎県生まれ。全国10都市に暮らしたのち、愛媛が気に入り移住。
現在、愛媛県松山市のデザイン会社「株式会社ERIMAKI」取締役。ディレクター、ライターとして県内外で活動。

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