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0からめぐる、ホテルのたのしみ
04| 音のかけらをデザインする人が語ること。

2023.12.22

  • 特集
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ITOMACHI HOTEL 0内にあるRECEPTION CAFEでは、このカフェだけの“BGM”が流れています。自動音楽構築システム「AISO(アイソ)」を使った、水の都・西条の水の音を山や街で録りあつめて作られた世界にひとつのBGM。制作したサウンドデザイナー、テクノアーティストの日山豪さんに制作のお話、制作にかけた思いを訊きました。

アナログな音の収集とテクノロジーが、奏でるもの。


RECEPTION CAFEに行かれたら、ぜひ耳を澄ましてみてください。空間と会話を邪魔しない音の群れが心地よく耳を抜けていきます。音楽の源は、厳選された音とテクノロジーを掛け合わせた自動音楽構築システム「AISO」。システムを発案し、西条にある自噴井「うちぬき」をテーマにITOMACHI HOTEL 0だけのオリジナルバージョンをつくったのがサウンドデザイナーの日山豪さんです。

「実際に音楽を聴けばわかるのですが、AISOを言葉で理解してもらうのはなかなか難しいです。楽曲という音の“かたまり”ではなく、“音のかけら”をプログラムがリアルタイムに、ランダムに構築し、音楽を半永久的に生成します。再生するたびに全く異なる構成で音楽が流れるため、終わりがない、ループしないというのも一つの特徴ですね」

▲RECEPTION CAFEのBGMをつくった日山豪さん

▲日山さんが発案し、開発された「AISO」

RECEPTION CAFEで流れるAISOからは、うちぬきになる水源やうちぬきの水の音を山頂から下流まで集め、音のかけらを100ぐらいまでに絞り込み、その水の音を一つずつ編集。ギターやピアノの生音、シンセサイザーも添えて、音や音の順番などをAISOのプログラムに入れ、その音をAISOがすべて組み合わせて音楽が生まれています。

水をテーマにすること。不安から確信、そして使命。


そもそも、2021年に誕生した「AISO」にITOMACHI HOTEL 0が着目したのは、西条に溢れる音を取り込み、まち自体を音で表現できるポテンシャルを感じたからでした。

「打ち合わせで、西条のうちぬきの話は聞いていました。地下水があちこちで自噴するまちなんて、ほかでは聞いたことがなく興味を持ちました。ただ水をコンセプトにすることへの不安もありました。水が豊かな日本では水が議題に上がることが本当によくあるんです。水をコンセプトに持ってくるのは弱いかもしれないという不安がありつつやっぱり行ってみなきゃ分からないから、とりあえず建設中のホテルへと向かいました」

最初の打ち合わせから数週間後、録音機材をバッグにしのばせて初の愛媛へ。飛行機がランディングする瞬間、滑走路が濡れていたのが今回のオリジナルバージョンのはじまりでした。

「機材は持っていましたが、あくまで現地の下見が目的でした。録るつもりはなかったのですが、濡れた滑走路を見て、直前まで雨が降っていたんだと気づいて。まさに今、西条の山に雨が降り注いでいる、うちぬきのはじまりのはじまりだ、今こそ山に録りに行かなきゃ!って。レンタカーで国道194号を走って、西条最大の加茂川上流へ向かいました。あたりは真っ暗で本当に怖かったですよ。よく観察すると水が浸みだしていて、音も聞こえる。数時間前に降った雨がまさに出てきている水の音を、移動しながら、日付を超えるまで録り続けました。水がテーマで大丈夫、うちぬきのストーリーができるって確信しました」

▲真っ暗闇の峠で水の音を録音する日山さん(画像提供:日山豪さん)

その翌日、街中のありとあらゆるうちぬきにまつわるスポットをめぐり、水の音を拾います。日山さん自身、ここまで突き動かされたようにフィールドレコーディングをした経験はなかった、と振り返るほどに夢中で。

「水の音って全部違うんです。上流はポタポタポタとかチロチロチロ。下に流れてくると水の量が増え、岩に水がぶつかってジャバジャバとかザーザーとか、いろんな音がします。中流だと人の手が加わってくる。水路ができるんですよね。すると水の流れに“ムダ”がなくなるんですよ。サァーって速い。貯水する文化も出てくるので、ドボドボドボドボとかも。最後、うちぬきになると、自噴という絶妙な水圧だからか、ビチャビチャでもバチャバチャでもない、ホヨホヨ、フピャフピャ。それはもう楽器のようで心地よく、ときどき和音すら奏でていました。あんなに柔らかい水の音、聞いたことがなくて。うちぬきの現場はどの場所も本当に独特でやさしい。
学校の前、交差点の角、公園、漁港の先端にまで水が湧き出ていて、本当に不思議な光景で。公共施設にも水くみ場がいっぱいあって、みなさん、マイタンクをいっぱい持って何家族か水くみの順番を待っている、そんな光景があちこちにあるわけです。人と水との密接なつながりが暮らしの中にあって、しかも全国的に珍しいうちぬき。これは水をテーマにしなければというぐらいに思い直しました」

そうして集めた音を、うちぬきのストーリーをつなげるため、水の流れを頂上、上流、中流、下流の4つにカテゴライズ。整理して順序をつけてAISOにインストール。AISOは、頂上から下流までの“音のかけら”をずっと流し、最後までいくともう一度元に戻って流す。まるで西条のまちを循環する、水の流れのようなBGMが誕生したのです。

上流の峠にて収録した音のかけら(音源提供:日山豪さん)※リンク先で聴けます

下流の河原にて収録した音のかけら(音源提供:日山豪さん)※リンク先で聴けます

▲いとまちマルシェ前のつむぐひろばにあるじゃぶじゃぶ池。これもうちぬきで、この音も今回のAISOに組み込まれている

空間と人のために、音楽を0からデザインする。


DJをはじめ、音楽家として活躍していた日山さんが、AISOを開発したそもそもの理由。それは店舗や公共空間で、セレクトした曲をつないだり、テーマソングを流したりと、耳がどうしても意識してしまうBGMへの疑いからでした。

「料理店や洋服店といった店舗オーナーの共通の悩みが、『曲をセレクトしたBGMはスタッフにとってもしんどい』ということ。100曲つなげようと200曲つなげようと、5時間同じ場所で働くんで、覚えてしまう。その曲を聞いただけで『仕事!』ってなっちゃうんです。曲をつなげる音楽をどうにかやめられないかな、というのはずっと考えていました。僕自身も、カフェや公共施設とかで、聞くためにつくられた音楽が流れていることにずっと違和感あって、人の耳にするっと入ってきて、するっと出ていってくれるような音をつくれないだろうかと考え続けていました。その結果できたのがAISOです。AISOでは、その瞬間の音の組み合わせは確率的にほぼ二度と来ません。作った僕自身、『はぁ〜ここで一回静かになるんや』『あ、次こう来る!』みたいな発見があります」

滑走路が濡れていたという運命的なシーンとの遭遇、うちぬきと暮らす人との関係性に日山さんの感性、感受性が呼応しできあがった今回のバージョン。この音のかけらたちは、西条の水のゆたかさを音から感じるという新しい切り口と体験を、そこにいる人たちにもたらしてくれます。

AISOが放つ音と、食、空間。コンセプトが共通するもの同士が三位一体となって生みだす心地のよさ。それが、ついつい時間を忘れてRECEPTION CAFEに居座ってしまう秘密なのかもしれません。


(日山豪さんのnote 「ITOMACHIHOTEL0 水音 収録体験記」も合わせてお楽しみください)

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ハタノエリ

1978年宮崎県生まれ。全国10都市に暮らしたのち、愛媛が気に入り移住。
現在、愛媛県松山市のデザイン会社「株式会社ERIMAKI」取締役。ディレクター、ライターとして県内外で活動。

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