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0からめぐる、ホテルのたのしみ
07 | 和紙デザイナーが語ること。

2024.05.08

  • 特集
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透明感があり繊細でありながら、空間の中で存在感と躍動感を放つ無二の作品たち。ITOMACHI HOTEL 0の空間に溶け込む和紙を使った斬新なアート作品は、「りくう」が手がけました。空間と作品、和紙と3Dテクノロジー。それぞれの調和から生まれる作品はどのように生まれたのか。「りくう」代表で和紙デザイナーの佐藤友佳理さんに話を訊きました。

自ら新技術を確立。3D技術と掛け合わせてできるもの。


和紙を使った「りくう」の作品は、温もりや手触りといった和紙の特色や魅力を、デザイン、そしてデジタルファブリケーションを駆使した和紙造形技術で、これまでの和紙の姿にはない形に“再構築”。和紙という素材の表現の拡張に成功し、和紙の創作物という既存のイメージを大きく変える作品づくりに取り組んでいます。ITOMACHI HOTEL 0では、館内のあちこちで和紙の最先端アートに出会うことができます。

「手すきで和紙を作る従来の方法では、どうしてもサイズ感や形状に限度がありました。私自身、立体的なものやデザイン的な試みに惹かれます。そこで愛媛県鬼北町の泉貨紙(せんかし)保存会・平野会長にも協力いただき、一緒に制作している寺田天志(たかし)さんの3Dモデル技術とデジタルファブリケーションが掛け合わせることで私が思い描く立体的な作品が表現できるようになりました」

長年の月日をかけて新技術が確立したタイミングに、ちょうど今回の依頼が重なったことで未知の作品づくりは始まりました。その挑戦の一つが、RECEPTION CAFEカウンターの壁に飾られるタイルの作品。ホテル周辺の地図をベースにデザインされた“案内図”は、淡い色合い、未知のテクスチャー感、デザインの妙に思わず目が釘付けになります。


▲細やかな調整と手作業によって作られた、196枚の特殊なタイルで構成。下部の「山のタイルは全5種類。「石鎚山系の地形のデータを下絵としてトレースしている」(寺田さん)(photo by 山山写真館)


▲りくうの佐藤友佳理さん

「西条市は海、山、まち並みの3つのバランスがとても良いまちです。このまちの地理や風土の魅力をアートとして成立させたいと思ってつくったのがこの作品です。上部は西条の水を表すエリア、真ん中が街と田畑、下が山を表現しています」

水は枯山水のようなデザインでデフォルメ。ゲストとのコミュニケーションツールになれば、とITOMACHI HOTEL 0の建物や石鎚山頂を表す特別タイルも制作して作品の中にしのばせるなど、細部まで神経と思いを張り巡らせて仕上がっています。

「和紙タイルの素材感は光を通す半透明で、タイルの裏に色を入れることで色が透けて見えるように工夫しました。RECEPTION CAFEの柔らかな空間になじむ作品にしたくて、できるだけ色を抑えたかったのです」

作品のベースにはインテリアデザインへの共感があった。


りくうがつくりあげる作品は、その場にアクセントをもたらしつつも、その柔らかさ、さりげなさで空間と絶妙に調和しているのが特徴。その背景には、ITOMACHI HOTEL 0のインテリアを担当したDugout Architects(ダグアウト アーキテクツ)が思い描くもの、つくり出すものへの深い共感がありました。

「ダグアウトさんが制作した完成予想図を見た時、ものすごく好みで素敵だなって思ったんです。色味も使う素材も洗練されているし、細かなこだわりが全面から伝わってきて。私が目指すデザインとダグアウトさんの世界観がフィットする感覚もあって、どの作品もダグアウトさんが思い描く空間に溶け込むように、調和が取れるようにと思いながら精一杯デザインしました」

空間との調和を最も体感するのが、天井から吊るされたRECEPTION CAFEにある作品です。うちぬきから湧きあがる水分が雲になり、天に向かって大きく渦を巻くように上がり、ふたたび雨や雲となって大地に降り注ぎ、繰り返し循環する姿をイメージしたもの。 “水の循環”をコンセプトにした、アート全体のシンボルとも呼べる作品です。


▲インテリアの色や素材感、雰囲気となじむ吊るしアート(左上)(photo by Yoshiro Masuda)

「ワーケーションで利用する方も想定していると伺ったので、忙しい日々の中にあってもホテルに身を置くことで、水の大切さやきれいな水を保つにはどうすればいいか、とか身近すぎて考えたことがない水の恵みに思いを馳せてもらえたらいいな、と考えました。粉雪、雨粒、湯気、虹など、多様な姿を持っている水をアートとして表現するためにまずは言葉で落とし込んでから、形にしていきました」

制作はまず、小さなパーツづくりからスタート。うちぬきの波紋の形状をデータ化し、選びぬいたデザインで5000枚以上のパーツを作り、雲の塊と見立てて組み立てていき、20弱の“雲”を現場に持ち込みました。


▲パーツのデザインは、水分子「H2O」からイメージ。「パーツ作成、接着剤の選定と地道な手作業と大変な調整が続きました」と寺田さん(photo by 山山写真館)

「どんな発色になるのか、現場に吊るされるまで全く想像できなくて。完成した時、白いパーツの塊の中に、青・赤・緑といった虹を構成する7色が見えて、まるで自然現象にも感じられました。完成した時は心底ホッとしましたし、うれしかったですね」

アート作品は宿泊棟にも展示。うちぬきから連想して、水の泡、水粒が吹き上がる形を表現した作品は、これまでのものとは雰囲気もテクスチャー感もガラリと違って、和紙という素材の果てなき可能性、「りくう」の表現の幅を思い知ります。

「この壁面アートはどうしてもやりたくて、つくった作品です。ダグアウトさんが考案したカウンターテーブルのシンクの形状などからもインスピレーションを受けています。工業的ではないような手の跡がちょっと残るような、“ナマモノ”っぽい雰囲気が一つあってもいいんじゃないかと思って。お子さんも直感的におもしろいと感じてもらえるのではないでしょうか」


▲HOTEL棟の入り口にある壁面アート。丸みのある表面は、優しい和紙の風合いになるよう工夫と手間をかけた(photo by Yoshiro Masuda)


▲ダグアウトが考案した洗面ボウル一体成形のカウンターテーブル(一部客室のみ採用)(photo by Yoshiro Masuda)

伝統工芸とは、水とは。立ち止まって考える時間を作品と。


和紙とテクノロジーを組み合わせ、細部に思いと技を張りめぐらせ、妥協なく形にしていく「りくう」。伝統産業に携わりながら、新しい技術を取り入れる理由に創作の原動力が隠されていました。

「人間国宝の室瀬和美さんと話す機会があったとき、すごくハッとさせられることがありました。『その時代のものと判別できるのは、その時代ごとに違った技や意匠が施されているから。伝統はその時代に合わせて技術もデザインも進化しているからこそ、今日も人に使われるし親しまれる』というようなお話で。なるほどと思ったんです。次々登場する新しい技術を道具と捉えて、和紙の魅力や可能性を伝え、広げていくことが自分の役目だと思っています。和紙の風合いを損なうことなく、さらに生かすものを作っていきたいですね」

ITOMACHI HOTEL 0で提供する新しい体験を象徴するような、固定概念を振り払い、新しい和紙の世界をみせてくれるアート作品たち。非日常に身を委ね、ゆっくり作品を眺める時間を、と佐藤さんは願います。

「このホテルは、ここだけ街から切り離されたような天国みたいな場所です。気持ちも身体も開放的になって、アート作品がさらに気持ちをほぐしたり、潤してくれたりするような存在になることを願って制作しました。作品を通してお客さんの心が躍ったり、癒されたり、『どうやって作ったのかな』『何がテーマなのかな』とか、好奇心を持ってくれたり。滞在する中で、ルーティン化した思考から抜け出すような作品になればうれしいです」

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ハタノエリ

1978年宮崎県生まれ。全国10都市に暮らしたのち、愛媛が気に入り移住。
現在、愛媛県松山市のデザイン会社「株式会社ERIMAKI」取締役。ディレクター、ライターとして県内外で活動。

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